jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
あれから1カ月が経ち、季節は春になった。
香さんと窓から桜の木を眺めていた。
桜の花びらが散っていく光景を見ていると、純白の世界に舞った桃色の花びらを思い出させた。
「香さん、窓から桜が見れるなんて恵まれてるよね。部屋でお花見できるし。わたしは毎年嬉しくってたまらないよ」
日に照らされた香さんの白い肌は、空中を舞う桜の花びらのように透き通ってしまいそうだった。
「あぁ、恵まれている。だけど、僕には蕾がいるから、毎日が贅沢さ。僕次第で、色も形も香りも変わってしまうんだ。なんて可愛いんだろう」
そう言って微笑みながら、おでこにキスをしてきた。
わたしの頬は、さくらんぼをくっつけたように赤く染まった。
「・・・・・・もう、恥かしい・・・・・・」

甘く囁やかれたり、意地悪されて悪戯な笑みを向けられたりするのは日常茶飯事だった。
まるで、白の王子様と黒の悪魔が交互に入れ換わっているかのようだった。
その刺激的な感覚に病みつきになっているわたしは、もう香さんから離れられないだろう。
香さんは相変わらずわたしにお熱で、溺愛しまくっているので、そんな中毒的な素振りはあからさまには見せないようにしている。
これ以上、香さんがエスカレートすると、生活に支障をきたしそうだ。
幸せでハニカミそうになったとき、わたしは急に気分が悪くなった。
手で口を押さえ、下を向いてしまった。
「蕾どうした?」
異変に気付いた香さんは、わたしの背をさすってくれた。
(もしかして!)

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