WHITE DROP
「これで一人ぼっちではなくなります、よね?」
「え?」

 先程の独り言を聞かれたのか。別に聞かれて極端にまずいことではないけれど、聞かれたとなると少し気恥ずかしくなる。

「…聞こえましたか?」
「大丈夫です。他の人には聞こえていませんから。」
「でしょうね。ここにいる人には多分、私は見えていない。」
「…そうですね。待ち人以外、誰も僕たちには気付こうともしていない。」

 突然『僕たち』と一緒の括りに入れられてしまったことに少なからず驚く。しかし、彼の柔らかい物言いに嫌悪感を示すことはできなかった。低く響く声は妙に心地良い。

「待ち人がいるんですね。」
「それはあなたもじゃないんですか?」
「…そう、です。」
「…浮かない返事、ですね。」

 私達二人の間に沈黙が落ちた。それ以上、私は彼について詮索することを止めた。彼もまた然りだった。私は遠くをぼんやりと眺めながら、そのまま待ち続けることにした。

 彼の吐く息が白く冷たい空気に溶けていく。時折彼が手をさする音を聞きながら、気が付けばもう1時間も過ぎていた。
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