WHITE DROP

「…なんだか、バカみたい。」
「そうだね。でも、今日はバカが一人じゃない。」

　彼の言葉に、心の何かが救われたような気持ちになる。

「君がバカなら僕もバカだ。…こんなことを言ったら君には叱られてしまうかもしれないけれど、僕が君に近付いたのは同じような匂いを感じたからだよ。
普通、彼氏を待つ彼女はそんな顔をしない。」
「…そんなに酷い顔、してましたか？」
「今にも泣きそう、って顔だったよ。」

　その言葉に、また涙の波が襲ってきた。前からあまり泣かない方だったけれど、一度泣き始めるとなかなかに止まらない性格だったことを思い出す。考えてみれば、私は彼の浮気を知った日も泣かなかった。貯めていた分の涙が一気に押し寄せて、瞼を濡らしていく。

「うわ！ごめんね！今のは僕が泣かせた！」
「いっ…いいんです、ごめんなさい！わ、私、一度泣くと、と、止まらなくてっ…。」
「…無理して止めなくて、いいんじゃない？」
「え？」

　ふわりと優しく、彼の冷たい手が頬に触れた。そのまま吸い寄せられるように彼の顔に自分の顔が近付いた。それは自分の意志でだったのか、彼の手が引き寄せたのかは、なんだかもうよく分からない。

　そっと、撫でるように彼の唇が私の唇に触れた。生まれて初めてしたキスなんかよりもずっと軽く、それでいて優しいキスだった。