魔法の言葉で夢を見させて?〈完〉
「まーい?どうした?寂しかったのか?」
「そんなことないもん」
入社して半年。
彼は初の出張に出かけた。
今日からの同棲は既に決まっていて
引っ越し業者も前々から予約していた。
当たり前のように急な出張よりも私の引っ越しのほうが優先される。
だから出張から帰ってきたばかりの疲れた彼の家に
ダンボールが山積みで
買ってきたお惣菜が雑に並べてあるのはしょうがない。
そしてそこに
不機嫌極まりない私がいるのも。
「ちゃーんと、1人で引っ越しできたんだろ?偉いな」
「ふん」
今しがた帰ってきた彼には
私がなぜ怒っているのかわからないだろう。
それ故
今の私に"引っ越し"という言葉が
禁句である事もしらないことはしょうがないのだ。
「舞。とりあえずご飯食べようか!せっかくの同棲記念日だ!」
「うん」
あの引っ越し業者。
いつか呪ってやる。