プリーズ・イート・ミー
それってどういう意味? そう思った瞬間、車が動き出して交差点を左折した。


「うわぁ……」


途端にわたしは声をあげた。

まるで桐谷さんが魔法をかけて、街中を明るくしたみたい。

目に映り込んできたのは、光の洪水。
車道の両脇に植えられた大きな街路樹がイルミネーションでデコレートされ輝いている。

白に近い青で統一された光の粒。
電飾のアーチをくぐり抜けて車が進んでいく。


「きれいですね……」


わたしは窓の外をうっとり眺める。

なんだか現実感がないというか。
夢の中にいるみたいな、不思議な気持ちになる。

日常の嫌なことも、些細な悩みも……今は忘れたい。
ただこの景色の中でロマンチックなムードに浸っていたいな……。


「桐谷さん、ありがとうございます」


ふいにそんな言葉が口からでた。


「何が?」

「ここに連れてきてくれて」


わたしが素直な気持ちを口にすると、桐谷さんは「やけに可愛いこと言うんだな」と、笑った。



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