プリーズ・イート・ミー
「どんな味か……。た、試してみたらどうですか?」


くいっと顔を上げ、挑発ぎみに言う。
精一杯のわたしの強がり。


「わかった。じゃ……そうする」


ふっと笑った桐谷さんが顔を傾けたから、それを合図にわたしはそっと目を閉じた。

彼の呼吸が近づく。
唇が触れるまできっとあと少し。

そんなタイミングで、わたしのスマホが鳴り出した。

ビクンと体を震わせ目を開けると、目の前にあったのは熱を帯びたような艶っぽい瞳。

唇が触れそうなほどの距離で、桐谷さんはからかうように言った。


「どうする? 電話出るなら、ここで止めるけど?」


どこまでもイジワルだ。決定権をわたしにゆだねるなんて。
そんなの答えは決まってる。


「やだ。やめないで……」

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