コンプレックス×2
1.香織の場合
眠りを妨げる電子音が遠くから聞こえる。
部屋は薄暗い。
まだ夜明け前だろうか。
崇(たかし)は頭から布団をかぶり、音のする方に背を向けた。
すると前から肩を揺さぶられた。
「崇くん崇くん、ケータイ鳴ってるよ」
言われて仕方なく布団から頭を出し、枕元の時計を見る。
時刻は7時5分。
「誰だ、こんな朝っぱらから」
毒づきながらも布団から這い出し、壁際にかけてある上着のポケットから携帯電話を取り出した。
相手を見た途端、昨日置き去りにされた記憶が甦り、怒りが込み上げてきた。
「久治(きゅうじ)! てめぇ!」
壁に向かって怒鳴りつけた時、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
振り返るとさっきまで崇がもぐりこんでいた同じ布団から、女の子が顔を出しておもしろそうに笑っている。
携帯電話を握ったまま女の子を凝視する。
徐々に頭が働き始め、彼女が誰だか思い出した。
笑っているのは香織(かおり)だ。
「ねぼけてるの? 丸見えだよ」
香織に指差され、自分が全裸であることに気付いた。
一気に目が覚め、それと同時に昨日の記憶が全て蘇った。