コンプレックス×2
崇が言い訳しようとした時、隣の部屋から壁越しに桃色の声が聞こえてきた。
(朝っぱらから風呂場で何やってんだよ、 隣の奴!)
朝っぱらだろうが真っ昼間だろうが、ラブホテルなんだから何やってるなんて愚問である。
崇が言い訳しながらうろうろ歩き回っている間も、隣の桃色の声は絶え間なく聞こえる。
ついにたまりかねて崇は叫んだ。
「あーっ! うるさい!!」
腰にバスタオルを巻きながら、崇はバスルームから部屋に戻った。
電話のむこうでは久治がおもしろそうにひやかす。
「隣も朝からお盛んだねぇ」
崇は驚いて聞き返した。
「えっ? 聞こえたのか? 今の声」
しばし沈黙の後、久治が吹き出した。
(あ、しまった!)
崇は自ら墓穴を掘ってしまったことに気付いた。
「てめぇ! カマかけやがったな!」
久治は得意げに言う。
「なに、簡単な推理だよ、 ワトスンくん 。君も彼女も荷物はこちらに置き忘れている。手持ちの現金は二人合わせてもわずかだろう。あの時間その付近で二人が泊まれる安宿といえば推して知るべしだ。――で、やっちゃったの?」
崇には答えることができない。
途端に久治が真面目な声で話し始めた。
「崇、ツアーのスタッフと参加者の色恋は御法度だ。発覚すれば君はスタッフの資格を失う事になる。たとえ彼女の方から仕掛けたとしてもだ」
「わかってる。だが香織は悪くない。オレが軽率だったんだ」
「じゃあ認めるんだな?」
「……ああ」