コンプレックス×2


「っていうか、おまえなにか着ろよ」


 香織は口をとがらせて横を向いた。


「ふーんだ。そんなのお互い様でしょ。ゆうべ散々見たり触ったりしたくせに、今さら何言ってんの?」

「そういう生々しいことを言って蒸し返すな! 自己嫌悪に陥ってんだから」


 香織が黙り込んだ。
 崇は背中を向けたままつぶやいた。


「ゆうべの事は悪かった。ごめん。どうかしてたんだ」


 さらに沈黙が続く。
 不審に思って崇が振り返ると、そこには今にも泣き出しそうな顔をした香織が崇を睨んでいた。


「どうしてあやまるの? 自己嫌悪って何? どうかしてたってどうしてたのよー!」


 香織がとうとう泣き出した。
 どうしていいのか分からず、崇は内心ひどくうろたえる。


「崇くんはゆうべの事を後悔してるの?」
「後悔してるよ」
「ひどい!」


 香織がさらに声をあげて泣き出した。
 崇は香織の方を向いて座り直した。


「泣くな、わめくな、話を聞け!」


 香織がとりあえず声を止める。


「いいか? ゆうべの時点でオレにとっておまえはお客様だったんだ。本当は違うって事を知らなかったんだから、オレはわかっていながらお客様に手をつけたって事なんだよ」


 香織は泣き止んだが、まだ納得はしていない。


「でも崇くんは私を救ってくれようと思ったんじゃないの?」
「そんなのは口実だ」


 香織が不思議そうに尋ねた。


「違うの? どういう意味?」

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