コンプレックス×2


 崇は視線をはずして天井を仰いだ。
 少し余計なことを口走ってしまった。
 しかし後戻りはできそうにない。

 意を決して視線をもどしたが、香織を正視できない。


「……わかった。白状する。信じてはもらえないと思うけど……」


 香織が見ている。
 次の言葉を待っている。
 崇は視線を落として続けた。


「……オレは初めて会った時から、おまえに惚れてたんだ」


 ちらりと香織を見ると、口に手を当てて絶句している。
 この隙に全部暴露してしまえ。


「だからおまえが好きで、おまえが欲しくて、ずっとチャンスを狙ってたんだよ。仕事を忘れて。かっこ悪いじゃないか、仕事そっちのけで女に夢中になってるなんて」


 香織が呆然として抑揚のない声で言う。


「それで自己嫌悪で後悔してるんだ……」


 崇はさらに続ける。


「それに、こんな話をする前にいきなり段取り踏み越えてるのも好きな相手に対して失礼だろう」

「それで"悪かった、ごめん"なのね……」


 すっかり泣き止んだ香織は、崇の言葉をかみしめる様に何度も小さく頷いた。

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