コンプレックス×2


「でも崇くん私の事好きな様には見えなかったよ。いきなり怒ってたじゃん」


 崇は深いため息をついて、がっくりとうなだれた。


「さっきも久治に指摘された。好きな子につっかかるなんて中坊の頃から変わってない。いいかげん大人になれって。頭ではわかっているけど、どうも素直に優しくできない。だから好きな子に嫌われるんだ」

「じゃあ崇くんはモテないくんなの? その割にゆうべは手馴れてたけど」

「だから! 蒸し返すなって言ってるだろ!」


 顔をあげると、香織が慈母の微笑みを湛えて見つめていた。


「崇くんは照れ屋さんなんだね。でも大丈夫だよ。私になら素直になれなくても怒っても、もう私はわかってるから」


 自分の中にわき上がった感情に、崇は戸惑った。
 この感情はなんだ。
 まるで初めて恋をした少年のように、胸がどんどん高鳴っていく。
 気持ちがどんどん膨らんでいく。
 そしてふと浮かんだひとつの気がかりが、突然それにブレーキをかけた。


「あの……ひとつ聞いていいか?」
「何?」
「おまえ、今付き合ってる奴とかいないよな?」
「いないよ」
「よかった」


 崇は一気に脱力して、大きく息を吐き出しながら項垂れた。


「このうえ他人の女にまで手を出してたら立ち直れないとこだった」


 香織がクスクス笑う。


「崇くんってクソ真面目よね」
「クソって言うな。どうせ言うなら生真面目って言えよ」


 そして崇は背筋を正すと、香織の前に座り直した。


「生真面目ついでに今さらながら段取りを踏ませてもらう。今後もオレと付き合ってもらえないか?」


 香織がこらえきれずに吹き出した。


「笑うなよ!」
「だっておかしーっ。私たち裸だよ。裸で第一段階踏んでるのってなんかへん」


 言われてみればその通りだが、もともと段取りは狂っているのだ。

 香織の笑いが収まるのを待って、崇は聞きなおした。


「で、返事は?」


 香織は微笑んで答える。


「私でよければ喜んで」

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