コンプレックス×2
見ると、ツアー客と思われる男女がもめている。
どうやら男が女の子を強引に口説いていたようだ。
崇が声をかけると、二人は同時にこちらを向き、男が慌てて女の子の手を離した。
崇は男に注意を与える。
男は気まずそうに笑って頭を下げ、バスに戻っていった。
残された女の子は、胸元に手を当てホッと 息をつく。
その姿をしげしげと眺め、崇は妙に納得した。
なるほど、頭が悪そうで隙だらけな軽い女に見える。
男がちょっかい出したくなるのは、分かるような気がした。
フワフワした丈の短いワンピースにヒールの高いサンダルを履いて、伸ばした爪にはネイルアートまで施している。
今から田舎町に行って、あぜ道を歩いたり農業体験をするような格好ではない。
(そもそも車中泊でミニスカートってありえねぇだろ! こんな奴が電車の中で足を広げてパンツ丸見えのまま、だらしなく眠ってたりするんだ)
偏見も交えて内心毒づきながら、崇は女の子にも注意を与えた。
「君も。軽率な行動は控えるように」
女の子はムッとした表情で崇を睨んだ。
「どうして私が怒られなきゃならないの? 私は被害者よ。あいつにちょっと来てって言われたから来ただけなのに」
崇はここぞとばかりに言い返す。
「知らない男に来いって言われて、のこのこついて行くなんて充分軽率だろう」
「私が軽い女だって言いたいの? いつも下心があるからそんな風に考えるのよ。男なんてそればっかり! エッチなんて大嫌いよ!」
下心があったのは自分ではなくさっきの男だ。
なぜ八つ当たりで絡まれなければならないのだろう。
軽く苛ついた崇は、またしても言い返した。
「エッチ嫌いなら、なんでこのツアーに参加したんだよ。結婚を意識している男女が対象のはずだ。結婚してエッチ嫌いだからってダンナを拒否るのか? 即離婚されるぞ」