コンプレックス×2


 女の子は黙って俯いた。
 彼女の目に涙が浮かび始める。
 しまったと後悔した。相手はお客様だった。
 彼女の態度に苛ついて、ついきつく言い過ぎてしまった。

 詫びようと口を開きかけた時、後ろから頭を叩かれた。


「こぉら、崇。お客様を泣かせるな」


 振り返ると、眉を寄せた久治に睨まれた。
 久治はすぐさま愛想のいい笑顔を浮かべ、崇を押し退け女の子に優しく話しかけた。


「ごめんね。こいつ口が悪くって。でも悪気はないんだよ」


 久治とは中学生の頃からの腐れ縁だ。
 崇が女の子と口論になって、うっかり泣かせてしまう度に同じセリフを聞いた。

 またやってしまったと、崇は思わずため息を漏らす。

 女の子は俯いたままつぶやいた。


「帰りたい……」
「へ?」


 キョトンとする久治の隣で、崇は再び声を荒げる。


「途中でそんな事できるわけないだろう!」
「だから、女の子を脅すな!」


 久治に再び頭を叩かれ、崇は口をつぐむ。
 そこへ別の女の子が、慌てた様子でやって来た。


「香織、何があったの?」


 どうやら彼女の友人のようだ。
 女の子の後ろから、昇までやって来た。

 出発時間になっても友人が戻ってないと言うので、一緒に捜しに来たらしい。

 崇は久治と昇、そして香織の友人に経緯を話した。

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