コンプレックス×2
崇が話し終わると、香織は友人に詰め寄った。
「有紀(ゆき)、これってお見合いツアーだったの? 知ってたら私、来なかったのに」
隙だらけの割に男が苦手そうな香織が、ツアーに参加しているのを不思議に思っていたが、知らずに連れてこられたというわけか。
だがそれはツアーの性質上問題がある。
病気やケガならともかく、途中で帰りたいというのも、崇たちの間では前例がない。
有紀が苦笑しながらなだめたが、ツアーの正体を知った香織は益々頑なに帰ると言い張った。
どうすればいいのか自分たちでは判断できないので、久治が会社に問い合わせた。
協議の結果、香織は帰ることになった。
見合いする意思がない者を参加させても本人も楽しめないだろうし、ハズレくじを引く男性も気の毒だからだ。
当日キャンセル扱いなので旅行代金の返却は出来ないし、自腹で帰ってもらうことになるが、それでもよければ帰ってもいいと言うと、香織は二つ返事で了承した。
友人の有紀はそのままツアーに残る。
ただ、今は真夜中だ。
朝になれば始発のバスがやってくるが、人気のない田舎のバスターミナルに女の子をひとり置き去りにするわけにもいかない。
タクシーを呼んだとしても出発地点からはかなり距離があるので、料金がかかりすぎるだろう。
三人のうち誰かが、香織を適当な町まで送っていくことになった。
「先ほどのお詫びも兼ねておまえが行け」と久治たちに押しつけられ、崇がその役目を負う。
納得はいかないが、ここで食い下がって更にスケジュールを遅らせるのもまずいので、崇は黙って従った。