コンプレックス×2
このまま始発バスを待つのも疲れるので、周りに何かないか探るため、香織と一緒に道路脇まで出てみた。
見事に何もない。
道路の向こうは田んぼで、その向こうにはすぐ側まで山が迫っている。
バスの通ってきた道路は、街灯も疎らで、暗闇の中に消えていた。
少し先に林の中へ続く脇道があり、その先で赤や黄色の灯りがチラリと見える。
何か店でもあるのかもしれない。
夜通し開いている店であることを祈りつつ、灯りに向かって歩く。
たどり着いた先にあったのは、小さなラブホテルだった。
車が停まっているので利用者がいるようだ。
入口横に提示された、宿泊七千円の文字が目に入る。
田舎だからか、施設が古いからか、やけに安い。
これなら宿泊してもバス代は残るだろう。
「朝まで寝て待つか」
崇はつぶやいて入口に向かった。
中に入ろうとして何気なく振り返ると、香織が立ち止まったまま一歩も動いていないことに気付いた。
(あー。めんどくせぇ)
ひとつ息をついて崇は言う。
「安心しろ。泊まるだけだ」
だが香織は未だに疑いの眼差しを向けながら、警戒心を露わにして尋ねる。
「本当に何もしない?」
「しないしない。する気にもならない」
投げやりに言うと、香織はムッとした表情で口をとがらせ、ふてくされたようにズンズンと崇の側までやって来た。
何もしないと断言しているのに、何が気に入らないのかわけがわからない。
本当は何かして欲しかったのかと勘繰ってしまう。