コンプレックス×2
少し沈黙した後、崇は気になっていたことを思い切って尋ねた。
「なぁ。おまえセックスが嫌いだって言ってたけど、前に何かあったのか?」
「何もないよ。ただ、好きになるほど気持ちいいって思ったことがないから。イクっていうのわからないの。だから面倒くさいだけだし。でも男の人って付き合い始めたら絶対求めてくるでしょ? 面倒だから付き合いたくもないの。それに相手だけ気持ちいいなんてシャクじゃない。男の人って好きでもない女の子相手でも気持ちいいんでしょ?」
「ま……あ……そうかな」
ストレートに訊かれて、崇は少し口ごもる。
女の子とこんな話をするのは、やはりちょっと照れくさい。
「でも心まで気持ちよくなれるのは、好きな子が相手の時だけだ」
香織は少し寂しそうな笑顔を浮かべて崇を見つめた。
その笑顔に胸がざわめく。
「そうなんだ。私、今まで自分から好きになった人と付き合ったことないの。だから気持ちよくならないんだね。せめて顔だけでも自分好みだったら違うのかな。でも多分もうだめだね。苦手意識が先に立ってるから」
そういって香織は、再び崇に背を向けた。
自分の中で何かがはじけ飛んだような気がして、気が付くと崇は香織の肩を掴かみ、身体をこちら側に引き倒していた。
「なんでもう諦めてんだよ」
驚いたように目を見開いて、香織が崇を見上げる。
胸の奥で警鐘が鳴り始めた。
今ならまだ引き返せる。
けれどそれに目を背け、崇は微笑んだ。
自分じゃない誰かが、自分の口を借りて言葉を発したような気がした。
「割と好きな顔のオレで、気持ちよくなれるか確かめてみないか?」
硬直していた香織の身体から力が抜ける。
それと同時に彼女は、甘い笑みを浮かべ崇の首に両腕を回した。
「違うよ。今の笑顔はかなり好き」
香織の腕に導かれるように、ゆっくりと互いの顔が近付き、唇が重なった。
香織を不快にさせないように気遣って、最初は静かだった口づけも、次第に熱を帯びて激しくなっていく。
互いの着衣を全てはぎ取り、手の平と唇で香織の全身を味わう頃には、夢中で彼女に溺れていた。
香織はお客様だ。
分かっているのに、もう止められない。
止める気もない。
理性のタガか緩んでいたのは、他ならぬ自分自身だったようだ。
罪の意識は存分にある。
だが崇は、あえて背徳に身を委ねたのだった。