光の思い出 - happiness&unhappiness -
「……そうかな」
「えー、かっこいいよ。まあ、有美にまで好きになられたら困るけどね」
透子はおどけた様子でそう言うと、耳に録音するみたいに戸田くんの歌声に神経を研ぎ澄ましていた。
……何も知らないくせに。
思わず本音が漏れそうになる。だけど堪えて、「好きになるわけないよ」と自分に言い聞かせるように呟いた。透子に届いたかどうかは分からない。
戸田くんはいわゆる、イケメンという部類なのだと思う。シャープな顎のラインとか、切れ長の瞳とか、笑ったときに出来るえくぼとか。そういうところには何故か、女子の気持ちを引きつけるものがあるのだと思う。
透子が言う「かっこいい」という言葉も、女子なら普通に思うことなのかもしれない。
でも私にはそう思えなかった。
……いや、違う。思っていたけれど、思えなくなっただけ。
――アイツのかっこよさなんて、とっくに忘れてしまった。
「近くの広場でイルミネーションやってるみたいだし、みんなで行こうか」
カラオケボックスから退散したのは、午後11時を回った頃だった。だけど完全に酔っぱらって出来上がった片山くんの一言で、まだ帰らせてもらえそうにない。
私そろそろ帰りたいんだけど……。
そう思うけれどまたもや透子に懇願されて、断ろうかと悩んでいる間に抜け出すタイミングを失ってしまった。
片山くんさえ余計な一言を言わなければ……。やつ当たりをして片山くんを睨むけれど、へらへらと笑っているので全然通用しない。おまけに何だかとっても楽しそうだ。
寂しい者でも、酔っぱらってしまえばある意味リア充みたいじゃん。平和だなこの野郎。