俺が媚薬を隠し通す

「 俺は… 認めていいのか?」

トイレを出て、保健室に戻る間にも俺は答えを認める自信がなかった。

保健室のドアを開けると、フワッと消毒の匂いが鼻をくすぐる。

生徒達がこのドアを開けて俺を見る。

恥ずかしがり、照れながらも俺を男としてではなく、憧れが占めているのだろう。
だが葉山だけは違う。

葉山自身で俺にぶつかってくる…
俺は… 嫌だったか?
そんな気持ちにはならなかったはずだ。
俺自身、葉山には俺が俺のままでいられた。

「 俺は…… 葉山に… 」

放課後。

ドタドタと走ってくる足音が保健室前に響いて、葉山が来たとわかる。

俺は椅子に座ったままドアに視線を向ける。

「 先生っ!来たよ~ 」

「 お前… 静かに来いよ、なんで走るんだ?ガサツだぞ 」

「 先生、ねぇ 抱きしめていい?」

「 ……は? あのなぁ、ほんとお前は俺の立場考えないね?」

抱きしめるとか、普通、逆だろうが。

「 だって、やっぱり我慢できないもん」

「 できないもんって、アホか。ここをどこだと思ってんだ… 」

こんな無鉄砲な奴を俺が好きだと?
やっぱり俺はどうかしている。

俺の白衣の中の手には媚薬がある。

俺は葉山には使わない…
だが自分にも使えない。

「 …生、ねぇ聞いてる?おーい 」

自分の気持ちが葉山にあるのなら、今認めて伝えるべきなのか?

いや、待てよ…
何か大事な事を忘れてないか?

「 なぁ、葉山ぁ… 告白されたんだって?陸上部の奴に?」

「 あ、うん。されたよ?だから?」

え、だから?って、なんだよ…
付き合うのか、付き合わないのかどっちだよ!

「 先生~ もしかして… 気にしてる?」

「 ない。それはない。断じてない。」

「 ……もうっ!イケバカ狸!私を好きになってよっ 」

いや、好きだよ、うん。でも、イケバカ… 狸?

「 おい、意味がわかんねぇぞ?」

「 先生の事だよ、イケメンだけどバカで狸ってそのまんまの意味だよ!私は、先生に本気だから、付き合うわけないし…
わかってよ… 先生が好きなの… 」

葉山… なんでそんなに真剣なんだ?
俺は 何をこんなに迷うんだ?

俺は 媚薬を密かに握りしめながら頭の中で答えを伝えるべきか考えていたんだ。
本当は、頭じゃなく心がもう答えをだしているのに…

葉山が俺に近づき首まわりに抱きついてきた。

手に握る媚薬から手を離して、葉山の背中に腕を回す。

結局、頭より心が一番素直だった。

抱きしめると、不思議と考える殻が剥がれていったんだ。

「 先生… 先生に好きだって言ってほしいの 」

「 葉山 沙理か… いいよ、俺の気持ちやるよ。」

この葉山の笑顔に媚薬はいらない。

葉山の気持ちが俺にも同じようにあって、認めてしまえば心があたたかいものだ。

媚薬なんてものは まやかしだ。

今この手にあるのは葉山の俺への本気の恋。

小娘に負けた俺は情けないが、葉山を負かすことが出来るのも俺だ。

なんと言っても、俺は大人で男だから。

「 葉山、卒業したら… 大人の付き合いだな?それまでは毎日俺の膝の上で言ってやる。お前が好きだってな 」

ほら、赤くなった。

向かってくるときは後先考えてないだろうからな、照れもなにも感じないだろう。

だが、こうして葉山を赤くさせるのは俺だけ。

「 先生… 好き 」

「 だろうな、俺も好きだよ 」

媚薬は、この先も使わないだろう。

俺にとっての媚薬は葉山だ。

今はまだ、媚薬と同じように大切に隠していく。

いつか、愛してると言う日までは……





______完_______



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