雪の足跡《Berry's cafe版》

 突然、後ろから肩を叩かれた。


「来てたのか?」


 振り返ると八木橋が立っていた。いつもの黒いダウンジャケット。驚いたのもあって、私は声が出なかった。


「どした?」
「あ……私、帰らなくちゃ……あの……」
「帰るって、通行止めだぞ?」


 八木橋は、アホか、と私を見下ろす。単独なら1時間もあればレッカー移動して終わるけど、あの様子じゃしばらく掛かるぞ?、と怒るように言う。


「だって母さんが、母さんが料理作って……待って……」


 私は咄嗟に車のキーをポケットから取り出し、駐車場に戻ろうとした。すると手首を捕まれた。


「馬鹿! 何考えてるんだっ」


 八木橋が怒ってる。いつものアホってからかう顔じゃない。


「何時間掛かるか分からない、車の中で一晩過ごすかもしれないんだぞ?? 雪山をナメるな!」




 八木橋は私の手首をつかんだまま、自動ドアをくぐり、フロントに連れていった。
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