雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋は今夜空いてる部屋はないかとフロントに問い合わせる。でもシーズン真っ只中のリゾートホテルに空きは少なく、足止めを食らった他の客に先を越されたらしい。後は宴会場をパーテーションで区切って貸し出す、とスタッフが言った。八木橋はスタッフに礼を言い、フロントから離れた。そして宴会場よりマシか、とブツブツ言いながら、私の手を引いていく。ミニコンビニの脇にある立入禁止の鉄扉を開け、長い廊下を歩く。

 着いた先は宿舎だった。八木橋は鍵を開けて中に私を引き入れる。


「今夜はここに泊まれ」
「ここって」


 見りゃあ分かるだろ、俺の部屋だ、と八木橋は循環ヒーターのレバーを上げた。6畳程の部屋に埋め込み式のクローゼット、小さいちゃぶ台がある。


「座れよ」
「や、やだっ、帰るっ!」
「アホ。通行止めって何回言えば分かるんだよ。全く」
「だって母さんが待ってるから」


 八木橋は、ファザコンの上にマザコンかよ、と言いながら私に手を差し出した。


「携帯。お母さんに電話しろよ」


 帰るって約束したのに、しかも私のために料理も多分ケーキも手作りしてる母にそんなこと言えない。


「や……」
「無断外泊する訳にいかないだろ?」
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