雪の足跡《Berry's cafe版》
「気を持たせるようなことしないでよ……最低」
「最低で結構」
私はそれを言うのが精一杯で、残りのご飯を食べた。
八木橋は黙って空の食器を重ねてひとつのトレーにまとめると席を立った。これ置いてきたら行くから廊下に出てろよ、と言って八木橋は部屋を出て行く。私は簡単に化粧を直してから外に出た。直に八木橋は廊下の向こうからやって来て、顎をしゃくって廊下の先を差すと先を歩いて行く。さっき部屋に来る時みたいに手をつかまれたりはしなかった。
長い廊下の先にある鉄扉を抜けるとコンビニの脇に出た。でも八木橋はコンビニには向かわず、ロビーのカフェへと足を進める。
「ヤギ? コンビニは……」
八木橋は私の台詞を無視してカフェの入口に立つ。そして顎でしゃくり、私に中に入るよう促した。私は仕方なく適当な席に座り、八木橋を見る。八木橋はカフェの店員と何やら話をしてから、私のところへ来た。
八木橋は向かいの椅子に座ると黒のダウンジャケットの右ポケットから茶封筒を出した。
「レッスン代、返す」
八木橋はテーブルに置いてズズッと差し出した。さっきの八木橋の台詞もあって、手切れ金のようにも見えた。
「いらない。今夜泊めてもらうからその宿泊代としてお返しします」
私もその茶封筒をズズッと押し返した。