雪の足跡《Berry's cafe版》

 いつものように和室の仏壇にお線香を上げられなかった。父に合わせる顔がなかった。外泊はしたけどフシダラなことをした訳じゃない、淫らなことをした訳じゃない。ただ、自分の意志で昼に上がるのを夕方まで延ばしたことが後ろめたかった。

 ダイニングのテーブルにはラップの掛けられた料理が並んでいた。母は冷蔵庫からサラダやケーキを取り出していた。私もレンジで料理を温め直したり、食事の準備をする。席に着き、乾杯をして目の前の料理達に心の中で詫びながら箸で摘む。


「怖かったでしょう?」
「え、あ……」


 母に言われて、うん、と返事をする。確か電話口で八木橋は母に、私が事故に巻き込まれそうになってパニクってる、と話してた。私はそれに合わせる。母は、こっちのニュースでも流れててね、母さんもびっくりして怖かったのよ、ユキが巻き込まれなくて良かったって、と言った。


「八木橋さんがいてくださって良かったわ」
「あ、うん、ヤギ……や、八木橋さんがすぐ部屋を手配してくれて、ちゃんと泊まれたし、コンビニにも案内してくれて……助かった」


 口が裂けても八木橋の部屋に泊まったなんて言えない。母を見ると笑っている。


「ふうん」
「や……」

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