雪の足跡《Berry's cafe版》
「誕生日に男の人に会いに行くなんて、ね」
「ヤギ……橋さんは技術選でいなかったし会いに行ったんじゃない。さ、酒井さんが夕方まで待てばって」
「事故は仕方ないにしても、外泊ねえ?」
「八木橋さんは他の部屋に移って、別に同じ部屋で寝た訳じゃないし……」
言葉を返す分だけ墓穴を掘ってる、私。
「ユキも親より大切な人が出来たのね」
「だから、そんなんじゃないってば! そんなんじゃな……」
母が心なしか、寂しく笑った気がした。昨夜母をひとりにした罪悪感が蘇る。二人ではとても食べ切れない量の食事を一人で作り一人で並べ一人で私を待っていた母。
「……母さん、ごめんなさい。帰るって言ったのに」
いいから食べなさい、冷めちゃうわよ、と母は皿を差し出した。親より大切、そんな関係じゃない。八木橋はハッキリと否定した、自意識過剰だと言った。あんなに思い切り否定しなくたっていいのに。もう少し優しい言い方だってある。正直傷付いた、本当に堪えた。なのに八木橋は帰れなくてパニックになった私を引き止めて、部屋の心配もして、からかっていつもの私に戻してくれて、レッスン代の代わりと言えどプレゼントを用意していて、ケーキまで……。
合コンだって私のはやとちりだった。あの菜々子ちゃんのことだって私の勘違いだった。私が八木橋を遊び人だと誤解していた。インストラクターであることをひけらかしてチャラチャラと女を引っ掛けるような男じゃないのは分かったけど、何故八木橋はこんな曖昧な態度を取るのだろう……。