雪の足跡《Berry's cafe版》
「ね、ここへは何人で来たの?」
「一人ですけど」
「ふうん。そう……」
不満げな相槌を入れられた。じゃ、雪が重いから怪我のないようにね、と言うと彼はコースに消えた。何となく腑に落ちない、ううん、感じが悪くてムッと来たけど、もう会話もしないだろう相手にイチャモンつけても疲れるだけだし跡も追わなかった。
しばらく茫然とゲレンデを眺める。ご褒美に来た筈の旅行なのにパッとしない。きっとそれは昨日水を零してしまったから。久々に雪の結晶をネイルに施して眺めて酔って、脇に置いたコップを忘れてしまったから。
「何ボンヤリしてるんだ?」
八木橋だった。ヤギ。
「別に」
「奴に何か言われた?」
「人数聞かれた」
「それで?」
「一人って答えた。それだけ」
八木橋は、ふうん、とホッとしたみたいだった。
「じゃあシャトルバスで?」
「ううん。車」
「4駆?」
「2駆」
「じゃチェーン巻いたのか? あの坂は2駆じゃ厳しいだろ」
女一人で、しかも車でチェーン巻いて登ってきた私が珍しかったんだとは思うけど、八木橋に言われると友達も彼氏もいないのかと馬鹿にされてるように感じる。
少し早いけど昼にすると言われ、顎で誘導される。リフトを1本降りきったところの丸太小屋風のロッジレストラン。私は部屋に戻って済ませる、と主張したけど、いいから、と再び顎で誘導される。板を外し置き場に立て、ワイヤー錠を掛けてから中に入る。トレーを持ち、棚から食べたいものを取り出す。カフェテリア方式。料理だけを取り、会計をしようと先に並んでた八木橋の後ろにつく。レジ台脇のポップにはケーキセットの文字が揺れている。
「……」
レッスン代さえなければ、とため息をついた。
「ケーキセット二つ追加します。あとこっちのも会計一緒で」
「は……?」
八木橋はケーキの棚に目をやり、私に持ってこいと無言で訴える。仕方なしにブーツをゴツゴツと鳴らし、チョコとチーズの2種類を一つずつ取る。