雪の足跡《Berry's cafe版》

 多分、気遣かってくれたんだと思う。板を肩に担いだらピアスに当たってしまうから。エッジで傷が付くかもしれない、と。似合ってるとか付けてくれたのかと言う代わりに板を持ってくれたんだと思った。八木橋らしい気配りだと思うけど、そういう小さな優しさが私を苦しめる。それに八木橋は気づいてないのだろうか。

 更衣室で着替えて板を取りに行くと私の板を眺めてる人がいた。シリアル入りのモデルが珍しかったんだと思う。昼になり、中腹のロッジレストランで八木橋を待つ。怒鳴られて泣いた私を宥めてくれた場所。私が誤解して八木橋の携帯を放り投げた場所。八木橋はすぐにやって来て私のところに来る。グローブとゴーグルを外し、二人で食事を取りに行く。私がいつものパスタを取ると八木橋は横取りするように奪い、自分の大盛りカツ丼と共にトレーに乗せる。私には顎でケーキを差し、選ぶように指図した。私はケーキはひとつだけを選んだ。


「食わねえのかよ、ケーキ」
「いいじゃない、別に」


 八木橋は二人分の会計をしようとする。自分の分を払おうとすると、アホ、の一言で一撃された。私はケーキとコーヒー、箸やフォークを取って席に着く。八木橋は黙って水を取りに行く。二人でただ食事をするだけなのに阿吽の呼吸で用意することに違和感さえ感じる、何故こんなにもスムーズなんだろう。

 私はウォーターサーバーから水を注ぐ八木橋を見ながら、ケーキは私の前に置いた。そしてポケットから箱を出し、八木橋のカツ丼の脇に置いた。


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