雪の足跡《Berry's cafe版》
「何だよ、ケーキはお前が食うの……」
水の入ったコップを持ちながら八木橋は箱を不思議そうに見る。ポケットに入れてたから溶けてるかも知れないけど、と私は言った。八木橋は、新手のワックスか?、と箱を開ける。
「自分用に作ったら作りすぎて、あ、余り物だからね!」
「へえ、ユキの手作り?」
八木橋はからかうように言うと一粒摘んで口に放り込んだ。八木橋の口に合ったかどうか思わず手を握ってしまう、俯いてしまう。
「ユキ、酒入れ過ぎじゃねえの?」
「人をアル中みたいに言わないでよっ。ヤギの酒豪に合わせてやったのよ!」
からかわれて顔を上げた。八木橋は、へえ?、とニヤニヤ笑っている。
「なんだ、俺のために作ったのか」
「え、やっ、違……」
きっと私は無意識に八木橋のためにトリュフを作っていたのかもしれない。自分が食べたいなんて、本当は違っていたのかもしれない。顔に火がついたみたいに熱くてごまかすのにフォークを握ってパスタにかぶりついた。八木橋はもう母のブラウニーを食べたんだろうか、母のブラウニーに勝てる筈もない。失敗した、と思った時だった。