雪の足跡《Berry's cafe版》
「だからお世辞は……」
「お世辞なんか言ったことねえって言ってるだろ」
もう我慢の限界だった。
「なら言い方変える。気を持たすようなこと言わないでよ」
八木橋は答えずコーヒーを啜る。答えないことが答えだと言わんばかりに黙る。ねえ、聞いてるの??と私は八木橋を煽った。黙るくらいなら傷付けるくらいの台詞が優しさだと思うのに、八木橋はチョコを放り込んで何も言わない。窓の外を見て、私から目を逸らした。
「ただのオモチャだと思ってるなら、もう構わないでよっ」
反応のない八木橋に更に声を荒げた。
「遊びだって言われた方が楽っ!」
「ア……。ああっ?!」
多分、アホ、と言いかけた八木橋が窓の外を見て奇声を上げた。
「へ?」
スキー置き場にあった私の板を触る人がいた。ポケットからペンチを出し、ワイヤー錠に当ててワイヤーを切っている。多分、板泥棒。私が立つより八木橋の方が先に立っていた。八木橋はポケットから携帯を取り出し、私に投げる。
「下に酒井がいるから電話しろ!」
そう言うと八木橋は早足でレストハウスを出た。