雪の足跡《Berry's cafe版》
「コーヒー!」
八木橋は財布から札を取り出しながらそう叫んだ。仕方なくコーヒーも二つ取る。八木橋は二人分のトレーを持ち、窓側の席に腰掛けた。私もケーキを乗せたトレーを持ち、追い掛ける。
「ねえ!」
「座れよ」
八木橋はさっさと食事を始めた。大盛りのカツ丼にかぶりつく。
「言われなくても座るわよ」
「食えよ」
私も腰掛けてパスタにフォークを刺す。
「なんで会計……」
「ここのケーキ、食いたかったんだよ」
「はあ?」
八木橋は目を逸らして呟いた。
「男一人じゃ恥ずかしいだろ……」
確かにここのケーキはクリームや粉砂糖で派手にデコレーションされてて明らかに女の子向け。チーズはドーム型でチョコはハート型。八木橋は再びガツガツとカツ丼を食べ始めた。豪快。こういう食べ方、嫌いじゃない。
「滑り方は繊細なのにね」
「アンタがガサツなだけだろ」
八木橋の言い方や態度の方がガサツだと思う。
「誰に教わった? 自己流か?」
「父」
なるほど、と納得するように首を振る。
「だから古いのか」
「は?」
「アンタの滑り方は昔の真っ直ぐな板の滑り方。今はカービングなんだからそれに合わせて滑れよ。シリアル付きだろ、あれ」
奴は喋りながらガツガツとご飯を口に放り込む。私もムカつく説教を聞きながらパスタをぐるぐると巻く。
「スキークラブの爺さん達と同じ。時代が変わったのに意固地に昔の滑りに縋り付く」
「アンタの父親もそうなのか?」
父……。