雪の足跡《Berry's cafe版》

 板泥棒は私の板を履くとのうのうと滑り始めた。こうして板を履いて逃げてしまえば、盗まれた本人は追い掛けることが出来ない。恐らく、質の悪い常習犯。八木橋も板を履き、ストックで勢いを付けると直滑降で滑り出した。

 私は渡された八木橋の携帯を操作し、リダイヤルから酒井さんの番号を探した。つながるとすぐに、板泥棒に遭った、今盗んだ板で麓に下りてる、ヤギが跡を追っていると告げた。酒井さんは小屋にいたらしく、私のシリアルナンバーを聞くと通話を切った。異様な緊迫感に回りの客やレストハウスのスタッフが寄ってくる。スタッフは他の箇所にも連絡してくれた。

 呆然と窓からゲレンデを眺める。スタッフは私を気遣い、椅子に促す。私は腰掛けて八木橋の携帯を握り、祈るしかなかった。







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