雪の足跡《Berry's cafe版》
酒井さんはスキー場責任者に報告してくるね、青山さんヤギを宜しくね、言うと小屋を出て行った。不意に八木橋と二人になる。
「ば、ばっかじゃない? 私の板なのに何故そこまでしたの? 自分が開発した板だから??」
八木橋はガーゼを外して、新しいガーゼに消毒液を垂らす。そんなんじゃねえよ、と言いながら額に当てる。
「……大切な板だろ」
八木橋は消毒液がしみたのか、顔を引き攣らせる。
「5年もしがみついてやっとボーナスもらって、親父さんのことも吹っ切って、ようやく滑る気になれて、薬局から内緒で注文した板なんだろ?」
「だからって……」
取り替えたガーゼには血が結構付着していた。たかが板なのに、まるで私を守るかのような八木橋の行動に腹が立った。
「……優しくしないで、って言ったよね?」
声が震えているのが分かった。
「……気を持たせるようなことしないで、って言ったよね??」
何故そこまでして私を構うのか、構う癖に素っ気ない態度を取るのか、分からなくて自分にも腹を立てていたのかもしれない。
「こんなことされたら、期待するじゃない!」