雪の足跡《Berry's cafe版》
視界が歪む。頬を液体が伝う。八木橋の前で泣くのはこれで3度目。八木橋に甘えてる自分。
「……だったらユキはどうなんだよ」
「何が、よ……」
ブレた視界の中でも八木橋の表情が険しくなるのが見えた。あの通行止めになった時に帰るとパニクった私を怒鳴るみたいに私を睨みつける。
「部屋に俺を誘って手料理食わせて抱かせて、親戚連れてまた俺の前に現れて、元も取れねえのにレッスン代をわざわざ取りに来て、プレゼントしたピアスも付けて、更に手作りチョコだろ??」
怒っている。何故八木橋が怒るのか分からない。
「温泉スキーなら他だってあるだろ?、レッスン代なら振り込むって言っただろ?、泊めた礼なんて宅配便で送りゃあいいのに」
「だって……」
「ユキこそ期待させんな!」
八木橋は立ち上がった。テーブル越しに私を見下ろす。
「覚悟はあるのかよっ!!」
覚悟? 一体何の。分からなくて立ち尽くした。
「クソっ……痛え……」
額を押さえて屈み、八木橋は再び椅子に座る。八木橋は怒鳴ったせいで傷を広げたみたいだった。私は慌てて八木橋の側に寄り、額を押さえている八木橋の手に自分の手を重ねようとした。でも八木橋は私の手を振り払うと大きめのカットバンに手を伸ばし、それを器用に額に貼り付けた。
ちょうどそこへ酒井さんが戻って来た。酒井さんは私が泣いて八木橋に寄り添ってるのを見て、お取り込み中?、とからかうけど、異様な雰囲気を察したのか笑うのを辞めた。