雪の足跡《Berry's cafe版》
「ヤギ、女の子泣かしちゃいけないって学校で教わらなかった?」
「……うるせえ」
呟くように言うと八木橋は席を立った。宿舎で休むわ、スクール長に言っといてくれ、と酒井さんに言うと扉に向かう。私は慌てて預かっていた八木橋の携帯を差し出した。八木橋はバツの悪そうにそれを受け取る。八木橋の顔を見上げるけど、目も合わせてはくれなかった。
「……もう来るなよ。顔も見たくねえ」
八木橋は携帯をポケットにしまいながらボソリと私に言って小屋を出て行く。酒井さんは、おいヤギっ、それは無いだろ!、と呼び掛けてくれたけど、バタンと閉まった扉が開くことはなかった。
「青山さん、大丈夫?」
「……」
座って、コーヒー入れるね、と酒井さんは棚に向かう。怖かったでしょ?、ワイヤー切ってまで狙うなんてさ、と話を逸らす。何故私が泣いてるのか、何故八木橋が怒っているのか、それを知ってるからか、理由を聞こうとしなかった。
「ヤギさ、あの板を初めて見掛けたとき、すごく喜んでてさ。吸い込まれるように青山さんの跡を付いて行ってさ」
酒井さんはカップにインスタントコーヒーを入れ、ポットからお湯を注いだ。