雪の足跡《Berry's cafe版》

「俺が見る限り、ヤギから女の子に声を掛けたのはあの時が初めてだよ」


 大抵、ヤギを見た女の子が女の子から声を掛けるパターンばかりだしね、と酒井さんは言った。ヤギはスキー馬鹿だからスキーしか見てない、と。


「それはヤギが開発した板だったからでしょ?」


 まあ、それは大前提だけどね、と言いながらカップを私に手渡す。


「ヤギの元カノに似てるから、青山さん」
「……似てないよ」
「え?、元カノ知ってるの??」


 八木橋の携帯に保存されてた元カノ。ふんわり巻き髪に甘めのネイルカラー。


「携帯で見たから。私より若くて可愛く飾ってて」


 酒井さんは笑う。青山さんだって若いし可愛いし、と言うけど、人当たりの良い酒井さんの褒め言葉に信憑性は無い。


「何て言うかさ、匂い」
「匂い?」
「放って置けない匂い。ヤギはあの通り、面倒見たがりだからさ。普段は口は悪いけど」


 あまり喋るとヤギが怒るから言えないけど、と前置きして酒井さんは話を続ける。八木橋の元カノはスキー初心者で、緩やかな初心者コースを数メートル滑っては転び、起き上がっては転び、を繰り返していたらしい。

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