雪の足跡《Berry's cafe版》

「急にどうしたの? 八木橋さんにプロポーズされた?」
「な、なんであんな奴に……」


『もう来るなよ。顔も見たくねえ』
『覚悟はあるのかよっ』


 母は、あんな奴?、やっぱり怪しいわね、とニヤニヤ笑う。あんな酷い台詞を言われた。言われたけどショックではなかった。八木橋の本心じゃない、そんな気がした。“覚悟がないなら来るなよ”と言われてる気がする。ただ単に私が脳天気なだけだろうか、酷いことを言われて喜ぶM気質なんだろうか。大体、覚悟って何だろう……。


「だから結婚なんか……」
「そう? ユキがお嫁に行ったら寂しいわねえ」
「母さんを一人にはしないわよ」


 そこで私の携帯が鳴った。画面には八木橋の名。顔も見たくねえ、と言った癖に何の用事だろう。


「もしもし」
「午後は滑らなかったのか?」
「うん。それより怪我はどうなのよ?」
「心配するな、アホ。お母さんいるか?」


 目の前でやり取りを聞いていた母は慌てた。怪我?、怪我って何?、と私に食いかかる。私は、板を盗まれそうになって八木橋が犯人を追いかけてくれた、と手短に説明した。母は携帯を取り、八木橋と会話をする。ユキの母です、娘がご迷惑を、いえ、と今日の出来事を話してるようだった。

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