雪の足跡《Berry's cafe版》
「ペンチ?、大丈夫な訳ないでしょう?、病院は……、そう。でも来週、予選なんでしょう? 大丈夫なの??」
予選?、技術選??、来週……?、地方予選なんだ。予選を控えて、何故。
「でも響くでしょ?、そう……ええ」
何故そこまでして私の板を取り返しに行ったの? 板なんてまた買えばいい、シリアルナンバーは入ってないけど、デザイン違いの同じタイプの板だってあるのに。
「そう……。あ、いえ、お口にあったかしら」
話題はブラウニーに変わったらしい。それから母に持たされた日本酒の話、再び技術選の話になり、今回も私よりずっと長い時間喋っている。怪我のことも技術選のことも日本酒のことも本当は私の方が聞きたいのに。
しばらくして通話を切ると母は携帯を私に返した。
「怪我のことは心配しなくていいってユキに伝えて、って」
「そ……」
「ヘルメットが傷に当たるけど来週には治ると思うから、って」
「うん……」
「怖かっただろうけど、懲りずにスキーは続けて欲しい、って」
「……」
やっぱり、また懲りずに来いよ、という台詞ではなかった。“覚悟”の意味が分からなければもう八木橋には会えない。でも分かったところで会える確証もないし。