雪の足跡《Berry's cafe版》
3月に入り、宅て配便が届いた。宛名は母と私の連名。母は私の帰宅を待ってから開けようと、ダイニングテーブルの上に置いていた。送り主は、八木橋岳志。
「何かしらね。わざわざ送らなくてもユキに預けてくれればいいのに」
3日前にもスキーには行った。行くには行ったけど東北にあるスキー場ではなく、上越方面。八木橋のいる南東北のスキー場は避けた。母はそれを知らない。私が八木橋に会いにあのスキー場に通ってると勝手に思い込んでいる。
箱を開封する。中には四合瓶の日本酒と菓子箱が二つ、その上にホテルの便箋が1枚乗せられていた。菓子箱にはそれぞれに付箋紙が貼り付けてあり、『お母さん』『ユキさん』と名が書かれている。多分バレンタインのお返しだろう。
母は四つ折になった便箋を手にする。男の人なのに丁寧ね、とそれを広げた。
「お母さんへ、ユキさんへ、先日は美味しい菓子をありが……」
母はその便箋に書かれた内容を読み上げる。菓子に対する礼と、少しでも口に合えばと麓でも有名な洋菓子店の菓子で、という内容だった。当たり障りのない文章に胸を撫で下ろす。母に勘繰られるのも面倒だ。
八木橋とはもう連絡は取っていない。あの地方決勝の報告メールを最後に来ていない。それは別に私が着信拒否をしてる訳じゃなく、八木橋の意思。勿論こちらからメールも電話もしないのは私の意思。私には“覚悟”がないと伝わったんだと思う。もしくは“覚悟”の意味が分からない馬鹿な女。どちらにしても八木橋と会わないのは同じ。
「追伸、ユキヘ」
「へっ??」
追伸の言葉にも驚いたけど、ユキヘ、と呼び捨てなのも驚いた。今更、何を……。