雪の足跡《Berry's cafe版》

 私もパスタを食べ終えてケーキに手をつける。ドーム型のチーズケーキ。中にはラズベリーソースやラム酒に漬け込んだフルーツが隠されていた。甘さの中にも大人のスパイスが効いて思わず笑みがこぼれる。


「おいアンタ」


 現実に引き戻される。


「おいアンタ、って何よ。私だって名前があるんだから」
「ユキ」
「何故下の名前なのよ!」
「青山さんってガラじゃないだろ」
「呼び捨てにしなくても」
「ユキさんでもユキちゃんでもねえし」


 ムカつくけど、抵抗するのも疲れるから辞めた。


「で、何」
「あの滑り方でいいのか?」


 父親ゆずりの昔の滑り方を指してるんだと思う。


「別に」
「せっかくいい板持ってるのに勿体ないぞ。もっと綺麗に滑れる筈なのにさ」
「別に綺麗に滑りたい訳じゃない。楽しければそれでいいじゃない」
「そうか?」


 八木橋の目が鋭くなる。


「な、何よ」
「板が可哀想だろ……」


 昨日も同じことを言われた。板が可哀想って。


「ま、ユキにはあのダッサい滑り方が似合ってるけどな」
「……」


 ズルズルと冷めたコーヒーを啜る。しばらく無言で休み、12時になって混み始めたロッジレストランを出た。
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