雪の足跡《Berry's cafe版》
でも父は定年目前に亡くなった。
「だからユキ」
「あ、うん」
「好きなことを今のうちにしなさい」
「うん……」
「ユキが選ぶ人にも好きなことをしてもらいなさい」
勿論、限度はあるわよ、と母は笑った。
「母さん、私もう、好きなことは沢山させてもらったから」
私立大にも通わせてもらった、スキーだって行かせてもらってる、だからもうこれ以上したいことなんてない、そう母に言った。でも母は首を横に振る。
「八木橋さんとはどうなの?」
「どうも何もないから」
「ユキ。ユキは昔からそうなんだから」
私は従兄の和彦に砂を掛けた。それからというもの、気になる男の子には素っ気ない態度をしたりわざとからかってもらえるような意地っ張りなことを言ってきた、と母は言う。
「何年、あなたのことを見てきたと思ってるの?」
「母さん……でも……」
恥ずかしいけど、母の言う通りだった。和彦に砂を掛けるように八木橋に突っ掛かる自分。三つ子の魂、百までとはよく言ったものだ。でも、もし、私が八木橋の元へ行ったら母はひとりになる……。