雪の足跡《Berry's cafe版》
「仕事、辞めたくないし……」
「ならあと1、2年続けたらいいじゃない。八木橋さんもそのくらい待ってくれるでしょ?」
「それに……」
私の誕生日にこの家で母を一人きりにした夜を思い出した。自分以外誰もいない家。自分のためだけに料理をし、一人で会話もなく食べる。そんな母親の姿を想像して、私は罪悪感でいっぱいになってパニックになって八木橋を前にして泣いた。八木橋のところに行くのが怖い……。
「……母さんなら心配しないで」
「母さん?」
「母さんならこの家もある。妹達も義理の兄も弟もいる」
「でも」
「さっきも話したけど、母さん、あなたしか産めなかった。あなたを産んだ後も流産して、その時父さんと決めたの。もう無理して子を作るのは辞めよう、って。ユキをユキだけをその分大切に育てよう、って」
父と母と作った沢山の思い出が蘇る。絶対に怒らなかった父、その父に甘すぎると怒っていた母。スキーを教えてくれた父、料理を教えてくれた母。私はいつの間にかボロボロと涙を零していた。
「だから覚悟は出来ていたのよ、いつかユキは私達の元から旅立つ、って。今はね、兄弟少ないから長男以外を探すのは難しいでしょ。婿入りなんて厳しいもの。それに」
「それ……に?」
「母さん死んだ後、ユキはどうするの?」
「母さん??、縁起でもない、やめて」
でも母は話を続ける。