雪の足跡《Berry's cafe版》

「か、母さん?」
「母さんだって独身よ」
「しょ、正気??」
「だって父さんに似てるんだもの」
「……」


 私は言葉を失った。本気なんだろうか、そう言えばバレンタインにブラウニーを焼いて私に持たせた。嬉しそうに、あれこれレシピを考えてて。一筆箋に、皆さんで、なんて書いたのは私の手前、形を付けるため……?


「や……」


 私は箸を置いて立ち上がった。母はニヤニヤと笑っている。馬鹿ねえ、と言った。


「冗談に決まってるでしょう?」
「やだ……からかったの?」
「ユキ、いいの? 母さんは冗談だけど八木橋さんなら幾らでも女性の方から言い寄ってくるわよ」


 そうかもしれない。八木橋は私にはあんな無愛想に振る舞うけど、スクールの生徒や母には礼儀正しい。多分、誠実で優しい人。


「ねえ、他の女性が八木橋さんの横にいる日も近いかもしれない。もしかしたらもう、いい人がいるかもしれないのよ」


 嫌……。


「それでいいの?」


 八木橋の隣に、いたい。
 
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