雪の足跡《Berry's cafe版》

 そこから会話が始まる。猪苗代のあのスキースクールに?、と尋ねられる。2度ほど個人レッスンを受けた、と言うとインストラクター名を聞かれた。恐る恐る八木橋だと答えるとご両親は奇遇です、と笑みを浮かべたが、菜々子ちゃんの顔色は逆に変わった。


「菜々子ちゃん……?」
「菜々子って気安く呼ばないで!」
「へ……??」


 こら菜々子、そんなことを言うんじゃないよ、と父親が宥める。でもそんなことを聞く様子は全く無く、私をギロリと睨みつける。


「すみません、この子、八木橋さんと恋人気取りで」


 父親が菜々子ちゃんの頭を撫でて言うと、ホントの恋人だもん、チューしたもん!!、と菜々子ちゃんはぷうっと頬を膨らませた。ほっぺにチューしたら恋人だなんてことコドモの理屈に、可愛くてつい、私は菜々子ちゃんに微笑んだ。


「こ、コドモだと思って馬鹿にしてるの?」
「ううん」
「菜々子、ぜーったいヤギせんせとケッコンするもんっ!」
「うん、そう」
「ぜーったい、ぜーったい、オバサンには渡さないもんっ!!」
「オバ、サン……」


 父親も母親も慌てて私に謝る。でも菜々子ちゃんの勢いは止まらない。
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