雪の足跡《Berry's cafe版》

「男の人って若い女の子が好きなんでしょ、菜々子の方がいいって言ってくれるもんっ!」
「こら、菜々子」


 辺りの宿泊客は菜々子ちゃんの饒舌さに微笑んでいる。こんな小さな子でも私が恋敵だって察知するのかと感心した。


「ヤギせんせのお部屋にだって泊まったもんっ!」
「もう、すみません……」
「お化粧しなくても可愛いって言ってくれたもんっ! オバサンみたいに厚化粧なんかしないもんっ!」
「オバ……厚……」
「な、菜々子!!」


 そりゃあ八木橋に会うために念入りに化粧もしたし髪もネイルもチェックしたけど、あまりの暴言にムッときた。


「今日だってね、ヤギせんせが菜々子に会いたいってお電話くれたから来たのっ。オバサンは呼ばれてないでしょ??」
「よ、呼ばれてないわよ……」


 菜々子ちゃんは勝ち誇ったように横目で私を見下した。


「ヤギせんせにとって菜々子はトクベツなの、わかった??」


 菜々子いい加減にしなさい、と母親が本気で怒りだした。私は、いえ本当のことですから、と言った。父親は昨シーズンの事故を含め、八木橋が連絡をくれた経緯を話しはじめた。私は酒井さんからあらかたのことは聞いていたけど、何も知らないフリで頷きながら聞いた。八木橋は、シードが無くても全国大会まで来たからもう心配しないでいい、と連絡したらしかった。それを菜々子ちゃんは八木橋が直々に応援依頼をしてきたと勘違いしたようだった。

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