雪の足跡《Berry's cafe版》
歓声、拍手、ラッパの音が大きくなる。きっと八木橋は無事にゴールしたんだと思った。手を顔から離し、ゴール付近を見回す。私とお揃いのウェアを来た八木橋はコースの脇に移動し、板を外している。ネット越しに仲間らしき観客が肩や頭を叩く。再び歓声が上がる。八木橋は振り返りスタート地点の掲示板を見上げた。
口をぱっくりあけて拳を握り、空に向けて腕を伸ばした。辺りの人間とハイタッチをしている。凄く嬉しそうに笑っている。私もその電光掲示板を見た。275。このレースは暫定1位。でもまだまだ滑っていない選手はいる。
八木橋は脱いだ板を拾い、コースの外に出た。そして人混みの中に入って行く。八木橋には連絡していない。だから私がここにいることも知らない。八木橋のところに行く勇気はなかった。最高得点を出した八木橋が凄く大きく見えた。凄く遠い人に見えた。八木橋が滑っている姿を見られなかった私は会う資格すらない気がした。八木橋の消えた方向に目だけをやる。
父親に肩車されていた菜々子ちゃんは両手を伸ばしながら斜め下を向いて笑っている。その斜め下から手が腕が伸びてるのが見えた。八木田橋のウェアの色……。菜々子ちゃんの体がふわりと浮くように移動し、八木橋が高い高いをするように菜々子ちゃんを抱き上げていた。その瞬間、菜々子ちゃんがちらりと私を見た。
「えっ……!」
菜々子ちゃんは横目でニヤリと笑う。八木橋は私のもの、と言わんばかりに私に視線を投げる。
「ヤ、ヤギは気付いてないからそっちに行ったのよ!!」
辺りの人は私の独り言に変な眼差しで見る。恥ずかしくなって私はギャラリーの人混みを抜けた。