雪の足跡《Berry's cafe版》
「その覚悟があって来たんだよな??」
八木橋は雪面を見たままだった。からかう時はいつも正面見て話す癖に。雪焼けした頬。
「……俺、山は下りられない。今日上位を取った奴らみたいに公認デモじゃねえし、ましてやオリンピックに出るようなスキーヤーでもない。ホテルで皿洗いも雪掻きもするけど、今の仕事に誇りを持ってる。たくさんの子ども達にスキーの楽しさを教えたい」
スキーのことになると雄弁になる。
「ユキに……ユキに一方的に仕事辞めろなんて卑怯だけど、もし、仕事を辞めて山に来てくれるなら、俺は……」
癖のある日本酒が好きで、スキー馬鹿で。
「俺はユキを支える。ユキもユキの母さんも」
誠実なところも。
「母親に何かあればいつでも里帰りすればいい」
優しいところも。
「それでも駄目ならその時は俺も山を下りる」
ねえ、娘は父親に似た人を選ぶって、誰が言ったんだろう……。