雪の足跡《Berry's cafe版》

 途中サービスエリアで休憩を挟み、帰宅したのは23時に近かった。車の音で気付いた母が玄関を開けて出迎える。八木橋は、突然夜分にすみません、と頭を下げる。母は笑顔で、いいのよ、疲れたでしょう?、早く上がってくださいな、と私と八木橋を促した。

 八木橋は中に入るとまず父のいる仏壇に手を合わせた。私も次に仏壇の前に立つ。そして、この人が八木橋で、このスキー馬鹿にプロポーズされました、と心の中で報告した。和室の隅には畳んだ布団が置かれてあり、母はここに八木橋を泊めるつもりなんだと思った。

 その後、ダイニングに行く。いつものようにキッチン側に母が座る。普段は向かいに席を取る私も、来客があるときは母の隣に座っていた。でも今回はなんとなく八木橋の隣に立ち、二人で並んで掛けた。一瞬、母は寂しそうな顔をした。テーブルを挟んで私と八木橋、母で向かい合う。


「やあね、改まって……」


 母は落ち着かないのか、席を立って酒の用意をしようとした。それを八木橋が呼び止める。そして、週末に休みが取れないこと、たまたま予備日で休暇を取っていたことを説明し、突然来たことを詫びた。今日伺ったのは他でもありません、と言うと八木橋はひと呼吸置いた。膝の上で拳を握るのが見える。


「ユキさんとお付き合いさせてください」


 まだ知り合って日も浅いです、だから結婚を前提にとは言いません、ユキさんが本当に僕でいいという気持ちになったらその時に改めて挨拶に伺います、と言って頭を下げた。私も思わず一緒に母に頭を下げる。

< 187 / 412 >

この作品をシェア

pagetop