雪の足跡《Berry's cafe版》
「や、覗かないでよっ! 最低!!」
「最低で結構」
クスクスと笑いながら中に入って来る。キョロキョロと見回して窓辺のアロマディフューザーを見つめた。円筒形のてっぺんから湯気を吐いている、それ。
「加湿器?」
「違う」
「芳香剤?」
「そんなとこ」
八木橋は屈んで鼻を近付けて、クンクンと匂いを嗅いでいる。なんだか怪しい人間みたいで滑稽だった。
「なんかヤラシイし」
「ヤラシくて結構」
匂いを嗅ぐのを辞めた八木橋は姿勢を戻して私の前に来た。
「や……」
八木橋は突然、私の首筋に顔を埋めてきた。そしてディフューザー同様、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「ちょっ、犬??」
「ユキの匂いの素はあれだったのか」
くすぐったくて首を竦めた。それでも八木橋は首から離れてくれなくて、私はバランスを崩して思わず片手で八木橋のシャツを掴んだ。八木橋の鼻が首筋から耳に移動した時点でわざとだと確信した。鼻先で耳たぶをなぞる、ピアスにこすりつけるように小さな円を描いて。私はもっと首を竦めた。シャツを掴んでいる手にも力が入る。そんなこともお構い無しに八木橋は耳を撫で続ける。