雪の足跡《Berry's cafe版》
しばらく耳元で悪戯をしていた八木橋は頭を私の肩に乗せた。ゴリゴリと額を擦り付ける。
「ヤ、ギ……?」
「……我慢出来ねえ」
「こ、ここなら父さんに見つからないから」
「アホ」
八木橋は、それもあるけど、と呟いた。ふう、と息を吐く。
「お前、昨夜からおかしいから」
「え?」
「酒も飲まねえし、ご飯もパクパク食わねえし」
「飲み込むことしか能が無い掃除機みたいに言わないでよ」
肩にのしかかる八木橋の頭から、うちのシャンプーの匂いに混じって男の匂いがする。八木橋の胸に甘えたくて、でもプロポーズされて蟠りがあるなんて言えなくて、そのまま動けずにいた。
「どした……?」
心配する八木橋に、何でもない、とも言えない。もっと心配すると思った。
「た、誕生日」
「誕生日?」
「ヤギの誕生日……」