雪の足跡《Berry's cafe版》

 しばらく耳元で悪戯をしていた八木橋は頭を私の肩に乗せた。ゴリゴリと額を擦り付ける。


「ヤ、ギ……?」
「……我慢出来ねえ」


「こ、ここなら父さんに見つからないから」
「アホ」


 八木橋は、それもあるけど、と呟いた。ふう、と息を吐く。


「お前、昨夜からおかしいから」
「え?」
「酒も飲まねえし、ご飯もパクパク食わねえし」
「飲み込むことしか能が無い掃除機みたいに言わないでよ」


 肩にのしかかる八木橋の頭から、うちのシャンプーの匂いに混じって男の匂いがする。八木橋の胸に甘えたくて、でもプロポーズされて蟠りがあるなんて言えなくて、そのまま動けずにいた。


「どした……?」


 心配する八木橋に、何でもない、とも言えない。もっと心配すると思った。


「た、誕生日」
「誕生日?」
「ヤギの誕生日……」

< 196 / 412 >

この作品をシェア

pagetop