雪の足跡《Berry's cafe版》
ペアリフトに乗り込む。案の定、八木橋は声低く喋りだした。
「膝を内側に倒し過ぎてる。それに腰の位置が高い」
「え……」
「ストックもキチンと持て。腋の下が空いてる」
「あ、うん」
「うん、じゃない。ちゃんと返事をしろ。気を抜くと怪我するから」
「うん」
「だから、返事は??」
「は、はい……」
さっきまでとは人格を変えたように急に厳しくなった。声質も低くて、早口で、怖い。例えるならテレビドラマに出てくる鬼コーチそのものだった。
リフトを乗り継いで昨日の中級コースに向かう。ペアリフトを下りて斜面の手前で止まると八木橋が私より少し前に出て説明をする。膝の曲げ方、ストックを突くタイミング、腰の位置。いつもは無愛想に顎でしゃくるのに八木橋は雄弁だった。たくさんの言葉を使い、屈んだり立ったりシュミレーションして見せて。その姿は必死で真剣で。
「今のを頭に入れて行ってごらん?」
「はい」
再び私から滑り下りる。今度は八木橋は黙ってはいなかった。滑る私の後ろから指示を飛ばす。
「内股にするな!」
「腰が高くなってる!」
「ストックを突くタイミングが遅い!」
指示というよりは怒号にも近く、辺りのスキー客はその声に驚いて私の方を見る。さっきまでの微笑ましいペアルックを見る目ではないのは分かった。
「ほら! また内股になってるぞっ!」
「ユキ、ちゃんと返事しろ!」
「はいっ」