雪の足跡《Berry's cafe版》
自分が死んだ後、父や母とは同じ墓には入れない。急に孤独感に襲われた。目の前にギロチンのような壁が落ちてきたみたいに怖くなった。全く別の、見たこともない墓。八木橋は長男、順当に行けば八木橋の両親と同じ墓に入ることになる。まだ会ったこともない人達。
それから、ふと思った、私が嫁げば横に刻まれる名は母が最後になる。父には弟がいる、私が八木橋と結婚しても青山の姓が途絶える訳ではない。この墓は父と母で最後になってしまう。先祖代々とか死後とか深く考える方ではないけど、後ろめたい気持ちになる。
その夜、私は夢にうなされた。硝子の向こうに父と母がいる夢。私だけ取り残されて、叫んでも硝子を叩いても父も母も気付かない。二人で楽しげに話をしていた。
翌日、親戚や生前の父と付き合いのあった人達がやって来た。それぞれに仏壇に手を合わせた後、皆でお茶を飲む。今年はどこの公園で花見をするだの、花粉症がひどいだの、春らしい話題が続く。父が亡くなって3年、父の話題も少なくなって来たことに寂しい感じもした。
しばらくして話は親戚の出来事に移る。話に加わるのも悪いと思ったのか父の知人は席を立ち、帰り支度を始めた。母が玄関まで見送りに行く。叔父叔母は甥が高校の入学試験に受かったとか孫が幼稚園入園するとか、この時期の話をしている。