雪の足跡《Berry's cafe版》
レモンをグラスに放り込み、口をつける。炭酸の上がる気泡に混じるレモンの香りにホッとしながらも酸味が物足りなく感じた。
「ユキ」
だから何?、と聞いた。
「だから、さ……。来たか?」
「何が」
「月のモノだよ」
「月?」
月のモノ、月の……。もっと味が出るようにストローでレモンを突く。
「かぐや姫でもあるまいし、月のモノって。えっ……?」
私は何か喋ろうとするけど、口が麻痺したように動かない。そういえば今月……。
「あ、あ、わ……」
来てない。本当なら、あの数日後に来てる筈だった。間違いはなかったかと頭の中でぐるぐると計算をする。
「気付くの遅えよ」
八木橋はそう言うと、笑った。妊娠したかもしれない、八木橋と私の子。八木橋を見ると頬を口元を緩ませてニコニコと穏やかに笑っている。明らかにいつもの馬鹿にした笑い方とは異なっていた。
私は慌てた。その八木橋の笑顔、そして予想だにしていなかったこと……。安全日だと告げて誘った私を怒ってないんだろうか。